上司から「読む?」と言われて何気なく読み始めました。
が、次第に引き込まれていきました。
ガウディ、と言えば、言わずと知れたスペイン・バルセロナの
「サグラダ・ファミリア(聖家族教会)を設計した建築家です。
(時代としては、江戸末期〜昭和元年)
作者は、サグラダ・ファミリアの専任彫刻家です。
日本人がサグラダ・ファミリアの彫刻を作っているとは
思いもしませんでした。
著者は1978年に採用され、15体の天使像など、
たくさんの彫刻を手がけているそうです。
20トンの石を彫り続けていたら、中からハープを弾く天使が出てきた、
というくだりがありました。
仏師が仏を彫るときに「木から仏を取り出す」という表現を
聞いたことがありますが、それと共通するもの−「魂」があるように
思えてなりません。
その「魂」を取り出すことができるのが、ほんとうの「職人」なんでしょう。
100年以上かけてよいものをつくり、それが自分がいなくなった後も
ずっと生き続けていく。
ものづくりに関わる者としては、これが理想の形ではないでしょうか。
ソフトウェア製造に関わる立場でこの本を読んでしまうと
ソフトウェアは粗製乱造?という気がしてなりません。
(持ってせいぜい10年単位なものですし・・・)
それにしても、設計者自身が完成を見られないとは!
できるだけの材料を、引き継ぐ者に残したとはいえ、
さぞ心残りであったのではないかと思います。
しかも没後、スペイン内乱で破壊の憂き目にあってしまったり
時代の趨勢で引き継いだ建築家や職人が冷や飯を食わされたり。
自分ひとりでつくれるものではないから、残念ながらどうしても
こういった政治的な問題にひきずられることはあるとは思いますが、
それでも尚、生き残って今また建築・修復が続行されていると
いうこと自体に価値があるように思います。
職人に頼る工法から大型機械の導入へ、石からコンクリートへ、と
時代に逆らえない変化も起こっています。
それがいいのか悪いのかは作者も分からないけれど、
そうしなければ建設の中止もありえたということなのだから、
一見悪く見えるかもしれないことでも、多くの人の「創り続けたい」想いが
あってこその判断の積み重ねだったのでしょう。
しかし、便利さは時に怠惰や傲慢を招くことにもなります。
方法は変わっても、根底に流れるもの、ガウディが目指したものは
失わないで欲しい、と願ってやみません。
サグラダ・ファミリアは2020年代完成を目指しているそうです。
私はバルセロナを訪れたことがありますが、これらの建築物を
単なる観光地としてしか見ていませんでした。
なんてもったいないことをしたんだろうと思います。
キリスト教に対する知識もなく、建築に対する知識もなく、
当時のスペイン・カタルーニャ地方の歴史についても知らず。
2020年代なら自分が生きているうちに完成するのではないかと
希望が出てきたので、またバルセロナを訪れて今度は
ひとつひとつを意識しながら見て回りたいと思っています。
これからバルセロナに行かれる方は、ぜひこの本を読まれてから
ガウディの建築物をご覧になることをお勧めします。
最後に、心に残った一節を書きとめておきます。
「人が平穏に生きるというのは、
それだけで大変なこと」
異国の地で、30年にわたって仕事をしてきた方の言葉には
言外に隠された様々な事象を包含した重みがあります。