いまや日本人は世界中のどこにもいるけれど、
マサイを夫に持っている人というのは稀有な存在だろう。
海外旅行や短期滞在で「この国は好き/嫌い」と判断してしまうのはたやすい。
しかし、大抵の場合はその国をちゃんと知った上で判断しているとは言えない。
プロ添乗員である彼女は何度もケニアに滞在し、マタトゥという乗り合いタクシーを
経営する中でケニアの裏社会をまざまざと経験したり、現地の男性との出会いと別れ、
それに伴って大変な思いを味わったり、という、決していいことばかりではない
経験の中で、それでも確かに自分はケニアが好きだと言う気持ちを持つようになる。
そしてマサイの成人式「エウノト」で出会った夫、ジャクソン。
結婚するまでも、普通の日本人カップルのように、デートを重ねて
愛を深めてきたわけではない。
ジャクソンいわく、「神が決めた。血がそうさせた」。そんな結婚。
ケニアを取り巻く環境が急速に変わっていく中、マサイだけが今までのまま
いられるわけではない。
しかし、伝統を守っていこうとしつつも新しいものを取り入れようとする
彼らにとって、永松氏は必要な存在になりつつある。
単なる個人の結びつきを超えた、それこそ「神が決めた」絆がそこに
あるのを感じられる。
彼女も、価値観や習慣の違いには戸惑い、悩んではいるが、確実に夫との
信頼をはぐくんでいる。その経過が見て取れる。
私自身、ワールド・ビジョン・ジャパンでケニアの女の子を支援しており、
ケニアに対する興味はそこそこあった。
しかし、この本を読んで、その興味はとても浅いものであることが分かった。
私の想像を越えた世界がそこにはあり、それはさらに興味をかきたてるもので
あることを、この一冊の本を通して知ることができた。
自分の知らない文化への新たな興味を喚起してくれたこの本に、
感謝せずにはいられない。
いつか、彼女の企画するスタディツアーに参加してみたいと思っている。